巨乳ファンタジー (2009/10/23) Windows 商品詳細を見る |
巨乳ファンタジー外伝
巨乳魔女
第2話 「冒険への突乳編」
■『巨乳SF?』 第1話
18禁ゲーム、「巨乳ファンタジー」「巨乳ファンタジー外伝」「巨乳魔女」の設定を元にした二次創作小説です。
原作を知らなくても読めるように半ばオリジナルで書きました。原作キャラなどは登場しません。
原作設定などは物語中で説明しています。
SFとかいてありますが、未来の話、というだけで、厳密なSF的考証は残念な出来だと思います、多分。
SF(すこしふしぎ)というよりSM(すこしみらい)ということでひとつ。
遠未来世界、神聖魔手という特別な手の持ち主が2人、世に登場した。1人は男、1人は女。
世界を荒らしてまわるサキュバスを相手に、2人は――
注・18禁です
エイラントの北。宝玉の国、カレンシア。
国土がでかけりゃ乳もでかい。
私にとっての楽園。
カレンシア。
「はぁ……」
でも、今、私は憂鬱だった。
「リリア!」
憂鬱の原因、主であるバスティ・モームが私を呼ぶ。
「こんなところにいたのか! 今日こそは付き合ってもらうぞ!」
笑顔で手をワキワキさせながら、私に迫ってくる。
困ったなあ……。
「あの……私、ただのメイドなんですけど」
「そこになんの問題がある! お前はこんなにも胸がでかいというのに!」
バスティが私の胸乳に手を延ばす。
それを私はひょいとかわす。
「…………ちっ」
バスティが舌打ちする。
「掃除の続きがあるので失礼します~」
箒を掴んで、踵を返し、バスティの脇を抜けていく。
「絶対俺のものにするからなああああああああ!!」
追ってくることはなかったが、バスティは恥も外聞もなく叫んだ。
「ふぅ……」
廊下の角を曲がって、バスティの視線から逃れて、また私はため息をついた。
モーム伯爵の所に就職して以来、彼は私を求め続けている。
私がそれを今の今まで拒んでいるのは、バスティが私の好みではないというのもあるけど、それ以前に……。
ふと、私の同僚のメイドが私の横を通り過ぎていった。
彼女の胸、歩くたびに揺れる果実を、私はじぃっと見て、ごくり、と生唾を飲んだ。
見てはいけない、といつもいつも思うのに、視線が吸い寄せられてしまう。
「ん……」
居心地の悪さを感じて、熱をもった足の根をずらす。
「やばいよね……これ」
明らかに濡れている股間を持て余して、私は、空き室へと急いだ。
誰も使っていない部屋に入って鍵をかけて、私はその場に座り込む。
「んん……下着、気持ち悪い……何日も我慢するとこれだから……」
エプロンドレスのスカートに、下から手を突っ込んで、ガーターベルトをよけて下着を脱がせる。つぅ……っと、下着と股間の間に、粘液の糸がかかり、ぷつんと途切れて、太股にへばりつく。
「んぅ……やらしい」
脱いだ下着を眼前に持ってきて、濡れた部分を凝視する。
エプロンドレスの裾を捲り、陰部を外気にさらす。
「はぁ……」
ため息をついて、でも、耐えられなくて、私は指を陰唇に走らせた。ただ触れただけなのに、ぞくぞくっ、と強烈な刺激が下半身を痺れさせる。
壁により掛かり、ずりずりとへたり込む。
「どうしよ……、どっちにしよう……」
皮を被りながらも刺激を欲して顔を出した女核、既に露を纏い何かを招き入れようとしている膣口。
私は、一瞬だけ逡巡して、どちらでいくか……を、考えた。そしてそれが、理性の、最後の発露だった。
「……ん、こっちかな……でも、右で……!」
女陰を一撫でした左手じゃなく、右手で、陰核をつまむ。
何かのスイッチかボタンのように、快楽のよどみが一気に解消され、急流となって下半身全体を飲み込む。
「ひっ……ぅああ……っ!」
息をのみ、腰を軽く上げる。
「あっ、ああっ……!」
自分を追い込むように、快楽から逃げようとする体を押さえ付けるように指で陰核を擦る。
「くっ、あ……ふ……ぁあ、気持ちいい、いいよ……こっちでも、右手でもちゃんとイけそう……んん……」
人差し指と親指ですりすりと撫で擦り、完全に勃起した淫核をしごく。
「ぁ、ああ、っあ……!」
甘やかながら、恐いぐらい強い刺激に、何も考えられなくなって、唇の端によだれの泡を浮かべ、自慰にふける。
「大丈夫……まだ、乙女で、いられるから……っ、きて、リュカ、リュカぁ……」
脳裏に恋しい人の姿を浮かべ、その人の手が自分のいやらしいところを愛撫してくれるところを妄想する。
「こっちも……っ……」
己の左手を胸元からすべりこませて、下着の釦を押してブラの締め付けを緩めてずりさげおっぱいを外に出す。
大きく柔らかい乳房を左手で揉みほぐした。
「っ…………!! あ、ひ……ぃ、くぅう……」
刹那、クリトリスの刺激を超える痺れが、おっぱいを中心に広がった。
乳首を触ったわけでもないのに、胸全体に快感が走る。軽い絶頂。愛液があそこから飛び出るように溢れた。
さらに、さらに胸のピンク色の突起に触れたら――
「だ、駄目ッ、ふ、っくあ、あ、あああああっ!!?」
硬くなった乳首を軽く引っ張るだけで、イってしまう。
「あ、はぁ……」
熱い熱い吐息と共に淫声を奏で、余韻にひたる。
「さ、さわっただけなのに……」
私の左手は特別な手。
人に触れれば傷を癒し、圧倒的な快楽を与える。機械に触れれば、その機構を破壊し、また逆に直すこともできる。
奇跡の手。魔法の手。
だから……軽々に左手を使うことはできない。
が、どうしても、思春期以降、性的な好奇心の果てに、いろいろ、その、試してしまっていた。
左手で乳房を、乳首を、陰核を、あそこを、おしりを……触れたりいじったりしてしまっていた。
そのせいで、私の体は、とてつもなく敏感で、いやらしく、そして、普通じゃない変化を起こしていた。
例えば。
「また大きくなっちゃってる……」
絶頂を通り過ぎて、改めて手の平にのせた乳房の重さを感じる。
「そろそろGの上……かなぁ? と、下着つけてみよ」
今の時代、下着の機能で調べることもできる。私の場合、自慰のたびに微妙に大きくなるので、そろそろかもしれない。
「よっと」
ブラジャーをつけなおして、脇の少し後ろ側にあるスイッチを押すと、形状がぐにーんと変化して、胸全体を覆う形になり、少し締め付けがきつくなる。
チェックが終わると、また元の形に戻る。
「んー」
データは手の平に浮かぶ、パーソナルモニターに映し出される。
<B98→99(H→H)>
「あらら」
すでにカップはGを通り越していたらしい。優先度の低い肉体変化は警告が出ない設定にしていたからだろうか、気づかなかった。
5年以上前、乳房がふくらみはじめたころは、あまりにも変化が激しかったから、パーソナルモニターではなく、ブラのほうから警告が出続け、大変だった。学院で授業中に鳴り始めたり……。あれは恥ずかしかった。それ以来、下着を買うと警告設定を切り、きついと思ったら買い直すようにしていたのだが……。
「体重その他バランスは良好、か。本当に胸だけ成長したのね……」
成長期が終わっても、だんだんと大きくなる乳房。ちょっと前まで一年で微増程度だったのに、今は、はっきりわかる増大を示している。
左手で触る自慰をおぼえてから……。
「ほんとに、あぶないよ……このまま1人ぼっちだと……変になっちゃうよ……リュカ……」
左手を伸ばし、淫裂へ。左手が重なるだけで、少し冷えていた体に、熱がたまっていく。そして膣口に指の第一関節をいれるだけで、情欲が再点火する。
「――っ! んん!」
狭い蜜口を割り開いた指が、ちゅぷ、と卑猥な音を弾けさせながら、奥へと誘われる。処女膜含めてキツキツな膣には指二本が限界だが、オナニーには十分で、指を軽く折り曲げ、感じるポイントをなぞりあげる。
「っぅ、あっぅうう!!
ビクっ、と震える腰、はねる足。強い快感にバラバラになってしまいそうな体。
「あ、ああ、ああああ! ぅあ! ひ、ひあ! ああっ!」
とろとろの女陰から愛蜜がこぼれおち、女性器全体、会陰、肛門まで濡れてしまう。
ちょっと前の絶頂をさらに超えて、どこか別の世界にまでいきそうになる。
「ふ、ぅぁ、ぁ、ああっ……! ま、また、くるぅうう!」
きゅうきゅうと締め付ける自分のアソコに指を激しく出し入れする。動きも音も匂いも快感も、激しく、濃く、強くなっていく。
下からも上からもよだれを流し、いやらしい音を漏らす。
「あっ、あっ、ひっ、ぃい」
いつもは一応理知的で通ってるのに、そんなもの投げ出して、性の快楽に耽溺する。
「リュカ……っ、リュカぁ」
私の中の女という性は、ただ1人を求めている。生き別れになった、たった1人の家族を。
私の左手は、リュカに繋がっている。
別れの時に繋いだ、リュカの手を覚えている。その温かさを気持ちよさを。
そして切なさを。
「……くっ、ぁうう……!」
泣きそうな痛みに等しい快感に体躯をくねらせ、白い首をのけぞらせる。
「あ、ああっ! リュカ! リュカ……っ!」
自分の手なのに、リュカの手で犯されているのを想像し、一気に上り詰める。
「いっ……くぅううううう……!!」
腰が勝手にはねまわり、足がひきつる。背を丸め、快感の爆発をしのぐ。
「はっ……はっ……ぅあ……」
短く、何度も熱い息を吐く。
次第に冷却されていく脳。けれど、体はそんなすぐにクールダウンしない。ちょっとの時間差が、嫌悪や、羞恥や、罪悪感を呼び起こし、果てに無気力となる。
「……はぁ」
けれど、そのまま眠るとかそんな馬鹿なことはできない。
乱れた衣服をそそと整え、立ち上がる。
すり……。
「うくっ……!」
まだ敏感だった部分が悲鳴をあげた。
「……」
満たされたはずの性欲が、別の方向から立ち上がろうとしているのがわかる。
エプロンドレスの胸元を開き、自分の巨乳を上から見下ろす。
自分の唾をのむ音が、妙に大きく響いた。
ぴく、ぴく、と呼吸するように突っ張る陰核に、私は手を伸ばしてしまった。触れてはいけない、左手で。
「……ひあっ!」
腰がくだけて、壁により掛かる。
左手がクリトリスに触れた瞬間、痛いぐらいに勃起していた紅い粒が、限界を超えて隆起した。
「はっ……はぁ……」
左手の指でつまめる程度だった突起が、左手で握れるくらいに肥大化する。
スカートの下には、もう女性器の一部とは思えない物が存在するはずで、それを証明するように、はしたなく、淫猥に、私の一物がスカートを下から押し上げていた。
「どうしよう……これ」
女としての愛欲はリュカだけを求めているのに、この、女から逸脱したアレは、無節操に色んなものを貪ろうと疼く。具体的にいうと、女性。もっと具体的にいうと、巨乳の女性。
したい。色々と。具体的になにやるかはよく分からないのだけど。できるかどうかもわからないし。
でも、やりたい。
やりたくなってしまう。
これが、貴族の公子であるバスティを今まで退けてきた理由。男なら1人しか興味なくて、女なら誰でもウェルカム。そういう性的性癖なのだ。
我ながら歪んでいる。
そんな自分を責めるように、強めに、肥大した陰核を握る。
「くっふぅううう! あ、あはぁっ……!」
息が詰まる。それでも上下にしごいて、いじめぬいていく。
「あっ、あっ、くぅ……! いやぁ……はっ、はぁあ、こっちなら……こっちならリュカじゃなくても……駄目っ……さすがに、それは……」
バスティ好みの、そして私にとっても好みのメイド同僚諸子の顔というか体を思い浮かべ、いわゆるオカズにして、陰茎を昂らせた。
今の私にとって、ここカレンシアは楽園であり地獄でもあった。生殺しの地獄。目の前にあっても絶対に手を出せない、こうやって脳内で犯すしかない。
陰核はもうペニスのように形を変化させていた。あとはそれを愛液をまとわせた手でひたすら擦るだけ。
「あ、は、はひ……くっ、……くる、すごいのっ……」
うつぶせになって、クッションに突っ伏しながら、絶頂の予感に震える。ペニスでいえば亀頭にあたる先端部を愛撫し、絞るように擦り、喘ぐ。
「あ、あっ、だ、駄目、だめっ……イくっ……、イっ、てるっ……あ、ひ、ああ、んあ、んああああっ!!」
びく、びくん、と断続的に大小の絶頂を繰り返し、精液に似た愛液を飛び散らせた。
「……はっ……はっ……はぁ~」
短く短く、そして長く、息を吐く。
気怠い余韻を纏わせながら、しばしそのまま横になっていたが、さすがにサボりすぎなことに気付き、よろよろと起立する。
ハウスキーパーの美熟女は寛容だが、それに甘えるわけにはいかない。
なによりも、お坊ちゃんであるバスティに恩義はないが、その親御であるモーム伯爵、伯爵夫人には拾ってもらった大恩がある。
もう十年近く働いているが、だからといって手を抜いていいわけはないだろう。
「さ……て、気を取り直していこうか」
ぱしん、と軽く頬を叩いて、空き部屋を出る。
いつかお金を貯めてリュカの事を探しに行く。世界中をまわって。
それまでもう少し、この暮らしを続けていかなきゃ――
そんな風に思っていた私の思いは、夢にも思わない方向で実現した。
たしかに私の左手はリュカの右手と繋がっていたのだ。
そう信じられるだけの冒険が、これからすぐ先の未来に、待ち受けていたのだった。
カレンシア女王国南部、首都、カーリア。
ドーム型都市が主流の現状では珍しい、開放型の百万人都市。
明るく、華やかな、この星の中でもトップに位置する都市。
螺旋状に広がる都市カーリアは、女王宮を中心に、現代と近代・中世、整然と雑然がなだらかに混じり合い、人間の素の姿が隠されることなく美しく現れている。
しかし、さすがに中核である最重要統治機構、女王宮だけは、ドームに覆い隠され、防護されていた。ドームの外殻は最新鋭のイージェス級装甲版が張り付けられており、各種通常兵器、魔術兵器から宮殿の中の女王を守る。
その宮殿の、人工光に包まれた女王執務室の奥、堅く剛健につくられた主席に、アデライナ・クーンツは座っていた。
容姿端麗な体付き。真珠を思わせる白い肌に、少し緩めの平服。髪も結い上げずに下ろしたままだが、軽いウェーブのかかった銀の髪はどこか優雅だった。豊かに膨らむ胸の山間に垂れる髪を片手で弄りながら、きちっと背筋を伸ばし、椅子の背もたれに頼ることなく座していた。
その場所は女王が座るべきところであり、だから、彼女は女王だった。少なくとも表向きは。
彼女が、きりりと凛々しい表情で書類に目を通しているところに、ノックの音が響いた。
「どうぞ」
入室を許可すると、一人の痩身長躯の男が、厳めしい雰囲気を漂わせながら入ってきて、一気に部屋の中央まで歩み寄ってきた。
「さ、宰相殿」
アデライナは慌てた様子で居住まいを正した。
「……人払いが終わるまで動揺するな」
「は、はい」
こくん、と頷き、威厳を取り繕う。
マラートは右目を閉じ、周辺の人の気配を探った。人払いは既に命じてあるため、気配は遠ざかりつつあった。
「…………済んだぞ。まったく」
「はい……も、申し訳ありません」
「お前は……まぁいい。今は急ぎだ」
「な、なにかありましたか」
「空中遺跡から発進した輸送機が、全て墜された」
「す、全て……!? た、たしか、六機プラス護衛機で月面基地とコロニーに向かった輸送隊でしたか?」
「ああ」
マラートは重々しく頷いた。彫りの深い顔の影が濃くなった。
「全機、一撃で主機関が吹き飛ばされ、四散した。軍用ではないとはいえ、通常兵器レベルなら耐えられるだけの装甲だったはずなのだがね……」
「つ、ツープはなんと言っています?」
「各種センサーが捉えた異常値から、超在マナ……オーバーマナ兵器による攻撃ではないか、とのことだ」
「お、オーバーマナ、ですか……ロスト・マジックですね」
オーバーマナ、それは魔力を超える魔力。魔法を超える魔法、と呼ばれている失われた奇跡だ。遙か昔、太陽系放棄フェイズ以前には、それを用いた超技術……恒星間航行、ワープ、タイムトラベルを始めとする大小様々な技術が実現、もしくは実現可能と思われる段階にまで到達していたという。
未来技術と未来魔術が融合した果てに生まれた、宇宙の根元を揺り動かす魔法だったという。
しかし、現在ではオーバーマナを用いた技術・魔術・魔法大系はほとんど失われており、カレンシアはもちろんエイラントでもロスト・テクノロジーとして扱われている。
「ほ、本当にオーバーマナなのですか? エイラントは大出力のフェーザー砲を保有していますし、衛星に積んで打ち上げておいたのでは?」
「フェーザー砲を搭載した衛星兵器など、どれだけ巨大なロケットで打ち上げる? それだけのロケットなら、情報部が察知するはずだがね」
「……で、では……彼等は、オーバーマナの生成を可能にしたというのですか? 魔法に特化した我が国より先に……」
「文献によると、オーバーマナの鍵は魔族の王が握っているという話。その王とやらがまた生まれたということかもしれん」
「……そ、そんな……信じられません……トール・ヘンデが死んでまだ二十年もたっていないのに……」
「お前は……本当に馬鹿者だな」
マラートは歎息を漏らした。
「信じようと信じまいと、緊急事態だ。国境近辺の街に魔族が攻撃をかけているという報告があがっていることも考えるとな。目覚めてもらうしかないだろう、眠り姫……本当の女王に」
女王はびくっと震えて一歩後退し、
「で、でも、予知された目覚めの時刻より少し早いのでは?」
「だから緊急事態だ。問題は、内側から閉じられた冷凍睡眠装置をどうやって開けるかだが……まぁ、この際、強引な手を使ってもゆるされよう」
「そ、それは……!」
「貴女は、許可をだせばそれでよい。女王名代のガイノイドにそれ以上求めんよ」
「あ……う……許可、します」
女王代わりの女アンドロイド、アデライナは慌てて手袋を取り、マラートの差し出したタッチパネルに触れた。
パネルは、指紋、静脈だけでなく指から発せられるマナのパターンを読み取り、正確な生体認証を行う。アデライナの指は、アンドロイドでありながら本物の女王と同一である。そこだけクローン技術で移植されているのだ。
「結構。君は陛下が目覚めるまでの間、ここで控えていたまえ」
マラートはそういい残し、さっさと執務室を離れた。
「……っ……くぅ……!」
アデライナは頭を抱え、机を拳で叩いた。
ガンッ! と重い音が響く。手袋を外していたせいか手に、ジーン、と鈍い痛みが走る。
「あっ」
しまった、という表情で、アデライナは手袋をつけ直した。
「はぁ……」
ため息をついて、女王代のガイノイドはずるずると椅子に深く沈んだ。
表向き、彼女は女王本人だった。彼女が女王のかわりの女形機械人形……ガイノイドだと知っているのは宰相マラートを含むごく一部の人間に限られ、この国の大多数は、アデライナを女王として見ている。
だが、実態はどうか。
女王としての行動は全て、マラートたちの細かなシナリオ通りに動かなければならず。プライベートでもぎちぎちの監視体制。アデライナ自身の裁量権はゼロに近く、なにかあれば内廷官から遠隔操作で肉体のコントロールさえ奪われる。
女王としての一方的な栄光と、アンドロイドであることを知っている者たちから感じる軽視。
この乖離に、アデライナの精神機構は軋み、摩耗していた。
それでも耐えていられるのは、後ろに女王陛下がいるからだ。
メモリに蓄えられた、胸躍る美しき王の記憶。アデライナと同じ顔の、英雄の伝説。
長き眠りについていはいるが、此の世の終わりと始まりを分かつラグナロクの直前に復活することが予知されている真なる女王。彼女がいるからこそ、アデライナはそれまで自分の役目をやりとげよう、と決心することができた。
こんな勝手に女王を起こしていいのだろうか?
頭部にあるCPUのみならず、女王宮地下に設置されているケテル・コンピュータまで使用して、プレコグニション……予知に近い予測を行う。
何度計算しても、女王が近々目覚める映像は出てこない。
「……陛下……どうすれば、私は、どうすればいいですか……?」
目を強く瞑り、祈るように、女王の姿を強く思う。
そして……光量子とマナが満ちる幻想空間で、アデライナは、もう一人の自分と再会した。
<仕方ないなぁ>
その人は、柔らかく微笑み、アデライナを手招いた。
<おいで。答えてあげるわ。でも、そのためには――>
そして、その人はアデライナの道を示した。
「……あ、あわわ……」
アデライナは突然の事態に女王代らしくない感じで慌てた。
「へ……へい、か……?」
自分であり自分でない存在、それは、女王その人に違いなかった。
「一体、今のは……? 答え……陛下が答えを……?」
女王の幻影を見ている間、ぽかんと開けていた唇を結び、少しの間、アデライナは考えた。
「………………」
そして、アデライナは、旅支度をはじめた。
女王宮を離れるための偽装も。
アンドロイドだから食料や水はいらないので、用意はコンパクトに済み、その日の夕方前には、女王宮を離れた。
内廷官がアデライナがいなくなった事に気づいたのは、女王の親筆が必要になった次の日の昼前であり、その時にはアデライナはカーリアからも離れていた。
アデライナはその時、とある貴族の領土へ御幸していた。
その地は、カレンシア女王国北部、モーム伯爵領。
有力貴族ではあっても特別親しいわけでもないモーム伯の元へ、アデライナ女王代が何故向かったか。それについてはアデライナ本人以外、誰にも分からなかった。
その日の夜、当直だった私は、常夜灯が薄く照らすモーム邸の廊下を歩いていた。
日付が変わるより前で深更とはいえないものの、夕食過ぎ、大浴場の明かりを落とした後は、ほとんど廊下を出歩く人はいない。
昼間、客人の目の届かないところで働いている自動清掃機や、オールワーク・アンドロイドも、夜はそのかすかな駆動音が耳障りだという理由で停止させられている。
そのため、とてもとても静かで、外の庭から風の音が聞こえそうだった。
「ま、遮音性高すぎて、風なんて聞こえないけど」
そういうところ風情がないと思う。
私は父母を失って以来、色々な土地をさまよっていたので、朝も昼も夜も、色々な音を聞いていたことが強く記憶に残っている。
自然が奏でる、同じようで違う、虫の音鳥の音獣の音。
違うようで同じな、人の喜怒哀楽の音。
「懐かしいな…………ん?」
ここに居着くまでの前半生の思い出を辿っていると、幽かに、風が鳴った気がした。
「…………」
それも、不穏な、悲風の音。
「なんだろ……」
私は首を傾げ、どこか窓を閉めていないところがあったかと、戸締まりの再確認をはじめた。二階廊下の窓を全て確認したあと、ふと、二階ロビーから下を見ると、玄関の大扉がわずかに開いているのがわかった。
大扉は人間一人二人の力では開かない重さのしろもので、昼間は半自動ドアなのだが、夜は電力がカットされ、完全に閉じられているはずなのだが……。
細く開いた大扉の向こう、夜の庭は、外の明かりで白く浮かび上がっていて、何も動いてはいないのに、何かがいる、いや、何かがいたのかも知れないという気にさせた。
「誰か……いるの?」
速くなっていく心臓の鼓動を感じながら、玄関ロビーに続く階段を、一段一段、下りていく。
風が、また吹いた。
今度は幽かではなく、強く、音がした。
なのに、なにも動く気配がない。扉の外にいるなら、何か反応しそうなものなのに。
私は一階に下り、ゆっくりと、大扉を中心に、様子を窺った。
もしかしたら。
もしかしたら、もう、中に入っているのでは――
いや、扉が開いているのだ。
中に入っていない方がおかしい。
……では、さっきの私の声に、なぜ反応しなかったのか……?
ドクン。
強盗。暴漢。殺人鬼。
色々な悪意を持った何者かを、私は想起した。
でも、一番恐いのは――
月明かりの下、浮かび上がる、白と銀の人影。
細く、頼りなげで、消えてしまいそうな、立ち姿。
光と影の中で曖昧になった存在。
それは――この世ならぬもののあらわれか――
そしてそれはこちらを向き、あの世へと続く口を開く――!
「――こんばんわ」
「ひっ!」
私は竦み上がった。がくがくぶるぶる。
「……?」
そんな私を見下ろす何ものかの視線。幽霊? ユー・レイ? やだそれ恐い。
「ナムアミダブツ、ナムアブダカタブラ……!」
私は呪文を唱えた。
「……? なに?」
しかし幽霊には効かなかった!
「……ここは、モーム伯のお屋敷で良かったかしら?」
「へ?」
幽霊は落ち着いた口調で、私に尋ねた。
恐る恐る、私は幽霊を直視する。
その姿は、夜の闇にはっきりと存在を示す、白の美姫であった。
確かに美しさはこの世ならぬところがあったが、近くで見る姿は確かに生気があってなにより――
「……? どうかしたの?」
呼吸する度、揺れる揺れる。
超巨乳。少なくとも私より上の。
あ、これ幽霊じゃない。と、私は思った。仮に幽霊だったとしても悪い霊ではない。だって胸が。
「こんな夜更けに申し訳ないのだけれど……ここは、モーム伯のお屋敷でよろしかったかしら?」
「は、はい……」
「そう……良かった」
「あ、あの、どちらさまでしょうか……」
「ええっと……あやしい者ではないのよ? と言ってもなんの証明にもならないか……。顔で、なんていう気はないし……」
「?」
顔、というとき彼女は私の方をちらりと見た。
「公民IDでよろしい? 認証できるものはあるかしら」
「あ、はい。こちらに」
素生のわからないものを屋敷にいれる際は入口で公民IDを確認することになっている。公民IDはエイラント、カレンシア共通で、出生時からずっと公的機関にお世話になったことがない者以外は全員登録されているため、ほぼ百パーセント、個人の判別が可能だ。
「こちらに指をお通し下さい」
「ええ」
招かざる客人は、素直に機械に指を通した。
だからきっと後ろめたいところのない普通の人で、ここには一晩風雨をしのがせて貰いに来たとかそんなんだろう――。
私はそう思って、ID情報が表示された端末に目を落とし、まずは前科がないことを確認して、あとは特記を見るだけ――と思って、ふと魔が差して、バストサイズだけのぞきみようと思った瞬間。
異常に気づいた。
バストサイズが……秘匿…………だと?
確かに、他人が見るとき私的すぎる情報は隠すことはできるが――
情報秘匿はそれだけではなかった。
当たり障りのない情報……名前や生年月日、星座、住所を除き、全て秘匿。
生年月日、新星歴225/12/34、住所……カーリアA00。
「A00って……たしか女王宮じゃ……王族関係者?」
「……ええ、まぁ、関係者ね」
「名前はアデライナ・A・クーンツ……え」
その名は、陛下、と呼ばれる者の諱。
「同姓同名……」
なわけはない。名はともかく絶対に同姓の人間はいない。
つ・ま・り。
「…………じょ、女王、陛下?」
女王は、黙って、こくんと頷いた。
その品のある顔と身振りは、動画や画像で見たことがある気がした。
「驚かないで欲しいのだけれど、内々の用でここまで来たの。伯爵への取次ぎは明日でもいいんだけど……」
「あ……はい、では、客室へご案内いたします」
セキュリティ上、夜の急な客人は断る決まりがあるが、貴人ともなれば別だ。その際には事後承諾でいいから客室へ案内することになっている。まして女王となれば、この屋敷で一番の客室へ移さなければならないだろう。
「悪いわね」
「いえ。こちらへ……」
一階から三階へのエレベータに乗り、すぐ右手の部屋へ。豪華さは賓客に対するものとしてはさほどではないが、安全面では最高の部屋へ通す。
「ありがとう」
案内が終わると、女王は感謝の言葉を述べた。
「いえ。お食事などは……?」
「済ませてありますから、お構いなく。ええと、湯浴みはできるかしら」
「はい。ただいま準備いたします。少々お待ちくださいませ」
一旦退出し、外から客室のセキュリティレベルを最高に引き揚げる。機構的封鎖、情報的封鎖、魔術的封鎖の三重ロック。
移動して客用の浴場の入浴調整スイッチを押し、さらにハウスキーパーの美熟女の元へ急ぐ。
「どうかしたのか?」
寝る前の恰好をした妖艶な家政婦は、自分の部屋へ私を招き入れてすぐ、そう尋ねた。
「来客です。その……かなりの高貴な人で」
「はん? ……ドーティク公爵のところの公子あたりか?」
「いえ坊ちゃまの悪友ではなく……公爵より上です」
「あーん? 公爵より上って、大公は空位だし、あとは……王族しかおらんぞ?」
「それです」
「誰よ?」
「女王です」
家政婦は腰を抜かした。
「な、ななな……! マジか!?」
「マジです。ゲスト用の第一室にご案内しておきました。認証端末にデータが」
女王の公民IDを認証した端末を渡す。
「……そうか。私は伯爵閣下にお伝えしてくる。お前は女王陛下について、なにかあったら対応を。夜だけど、ケータイ端末の電源はいれておくから、ヤバかったら言いな」
「了解です!」
退室し、女王のいる客室へ。走らずに、しかし歩みを速く。
「湯殿の準備がととのいました」
女王陛下は椅子に座り、なにやら書き仕事をしていた。
さっきは気づかなかったが、手荷物があったようで、足元にバッグがおかれていた。
「そうですか、それでは案内をお願いします」
「はい」
で、風呂である。
メイドのお仕事背中流し。これが男の客人ならノーサンキューだが、女なら超OK。
長く細くしかしやわらかな肉をつけた足。蠱惑的な曲線でくびれた腰。そしてそして、その体付きにのった、大きく、豊かで、メロンのような丸みの宝玉。
地球に引力があるように、丸いものには引力が宿るのか、視線がそこから離せない。
ふわりと柔らかさを感じさせつつも、けっして形を崩さない若い果実。
そしてその頂点の、唇の色にも似た薄紅の乳頭。乳房が果実なら、乳首はスイートスポットだろうか。こっちには吸い付きたくなる引力がある。
「…………?」
邪気を感じ取ったのか、アデライナ様は胸を隠した。
が、隠し切れていない。乳首隠して乳房隠さずである。
「お背中、流しますね」
じろじろ見てばかりはいられない。メイドの仕事をしなければ。
だがしかし、椅子に座った女王陛下の胸乳が、姿見用の鏡にばっちりしっかりちゃっかり写っているのを私は見逃さなかった。
さらに、正面からだけではない。背中側からも、脇乳がこんにちわ。眼福なり。
鼻の穴が膨らみそうになるのを堪えて、黙々とお背中をお流しする。どうもおっぱいばかりに気を取られがちではあるが、女王陛下は頭から爪先まで、お美しい。背中のラインなど女神像のそれだ。それを丹念に磨く。
「あの……?」
女王が軽く後ろを振り返る。
「は、はい、えっと何か問題がありましたか?」
「いえ。ただ、何故片手で拭いているのかと疑問に」
「あ……」
思わず、右手だけで洗ってしまっていた。左手が触れたら、大変なことになるんじゃないか? と思ってしまうのだ。
左手に特別な力が宿った事を知ったその日から、人に触れるときは、意識して右手だけで触れるようにしてきた。
多分、性的なところじゃなければ、そこまで劇的な効果はないと思うけど。
「失礼しました……少々腕が怠けたがっておりまして」
「まぁ」
クスっ、と女王は笑みを浮かべた。
私は、左手を石鹸の泡に突っ込む。
……大丈夫、だよね。背中なら、血行がよくなるぐらいですむ、はず。お風呂の湯気で、多少の温かみなんて気にならないだろうし。
私は決心して、タオル越しとはいえ左手で、アデライナ様の肌に触れた。
「ん…………?」
ピク、っとアデライナ様の体が震えた。
触れた白皙の肌が、少し朱に染まる。背中から肩へ指を滑らせ、女王の肌を揉みほぐす。
細やかな肌理、皮膚の下の肉、その下の骨にまで響く、私の魔手。
「な…………に、あっ…………つ……!」
力は血管に届き、血に干渉し、全身へと波及する。
「こ……れ……って……!」
陛下が、何かに気づいたように目を見開く。
ま、まずいか!?
手を離すかどうか逡巡した瞬間、指が滑って、背中と腕の間、すなわち脇に手がはいりこんでしまった。
「――ひゃわ!」
アデライナ様はビクン! と、体を跳ねさせて、脇をキュッと締めた。だが、一緒に私の手も挟んでしまい、手が柔らかなお肉とお肉のあわいに包まれた。
二の腕肉と脇乳肉によるサンドイッチ……これは……ある意味パイズリ!?
頭に一気に熱がのぼって、わけがわからなくなった私は、正確に言えば私の手は、暴走を開始し、挟まれた状態の手の先、手首を折り曲げ、アデライナ様のおっぱいを、揉んだ。
がっつりと。両の手で。
「――へっ!?」
くすぐったさに悶えていた女王様が、戸惑いの声を上げた。
「ご、ごめんなさい~!!」
事故だよ事故なんだよ、という雰囲気の声色で謝ったものの、もののついでにもう一揉みした。
そしてその感触が。
じり……。
「え?」
私の左手に伝わると、奇妙なイメージが、私の脳内に広がった。
「……機械?」
「!?」
まわる歯車。軋む機構。
すり減り悲鳴をあげる冷たいからだ、そんなイメージ。
マナを発する有機部品。マナとナノマシンによって限り無く人間に近くなったボディ。
機械化した人類と人間化した機械。どこまでも接近しつつも、現代に至っても、いまだ同種とはみなされない種族。
アンドロイド。
エイラントでは人権も与えられ、表面だけにしても同化がはかられているのに対し、ここカレンシアではロボット工学三原則強制遵守という、アンドロイドはあくまでも機械でしかないという思想が社会全体で貫かれている。
「な……な、んで……」
女王の体が、怯えで揺れる。
「あ、あの……
その様子を見て、私は慌てた。
考えてみれば、アンドロイド蔑視の国家において、その元首がアンドロイドだなんて、あってはならないことなのだ。
だがしかし、人間と見分けのつかないアンドロイドが女王位について、それが露見しなければ……?
私はタブーに触れてしまったのかも知れない。
アデライナ様は、
「…………だ……誰にも……い、言わないで……」
消え入りそうな声で、自分の腕で自分の体を抱いて、小さくなって、震えた。
その姿を見て、私は胸が締めつけられた。
さっきまで女王の貫禄だった広い背中、が等身大以下に縮んでいる。
それを後ろから抱きしめた。
「大丈夫です」
左手をまわし、人間なら心臓がある胸の中心に触れる。左手から力を与えるつもりで。冷たい体の内側を温めるつもりで。
「あ…………え…………?」
当惑するアデライナ様を強く抱きしめる。
「大丈夫ですよ。誰にも言いません、陛下」
「…………」
震えが止まった。
凍えそうな体に火がはいり、バグのような軛が外された感触がした。
しばらくそのままでいて、やがて、こくり、と、アデライナはうなずいた。
私は鏡越しに微笑み、洗浄を再開した。
陛下は無言になり、そして私もそれ以上言わず、湯浴みを済ませた。
「あなたの名前を訊いてもよろしい?」
湯殿から出て、客室へ戻って一息つくと、私と正対して尋ねた。湯上がりの色っぽさを漂わせながらも、凛としているのは、さすがに女王陛下だと思った。
「リリアと申します」
「リリア……下の名前は?」
「えっと……ありません」
「無い?」
「はい……テンマという仮の姓はありますが」
「ヘンデ、という姓ではありませんか?」
「へ?」
女王陛下の口から意外なネームが飛び出した。
記憶が刺激される。
悲劇の記憶が。
父が母さんを殺し、父も自殺し、家族を失って、幼いリュカを連れて流浪した記憶。
「……あー……そういえば……テンマの家にいる前はそんな名前だったような……」
「やっぱりそうですかトール・ヘンデの子…………まさかメイドだなんて……」
「えっと……? どういうことです?」
「あなたの手。おそらく左手だけですか。かなり特殊な力を持っていますね?」
「えっと、はい」
女王の秘密を知ってしまったこともあって、素直に私は首肯した。
「その手の名前は神聖魔手といいます。神聖魔族、魔族の王が持つという伝説がある、奇跡の手です」
「はぁ…………魔族の王、ですか」
私は頭を掻いた。なにそのファンタジー。
魔族の存在は知っているし、人類がその血をひいているらしいという話も知っているが、いままで関わったことがまったくないのだ。
そういえば最近、エイラントとカレンシアの緩衝地帯にある中央構造体から、サキュバスとかいう魔族が、エイラント、カレンシア両国に侵入してきたという話も聞くが……。
「その、私の手はたしかにおかしなパワーがありますけど、それが神聖……なんとかとか、魔族の王とか、そういうのとは限らないんじゃ」
「いいえ……あなたの父、トール・ヘンデも魔族の王でしたから……あなたは間違いなく、魔族の王……少なくともその芽があります」
「芽?」
私は首を傾げた。
「左手だけ、というのが気になります。あなたの父親であるトール・ヘンデは両手……あなたは片手だけ。なぜ不完全な形で発現したのか……」
「……」
私は、思い当たることがあったが、黙秘した。
「ともかく、私の目的の半分は達成されたということだから……リリアさん」
「は、はい!?」
名前を呼ばれて、私は居住まいを正した。
「多分明日か明後日か……私と一緒に、故宮霊園への御幸に付き合ってもらえる? モーム伯爵には私からお願いするから」
「故宮霊園、ですか?」
名前は聞いたことがある。
カレンシアの南側国境近くにある、かつての女王宮を利用した、戦死者たちを祀る施設だ。
「伯爵から許可を頂ければ、私は問題ありません」
「そう……それならできるだけ早く伯爵に――」
と、そこにタイミング良くノックの音が響き、伯爵付きのメイドが、モーム伯がこちらに向かっていることを告げた。
「お疲れ。あとは私が対応するから、夜勤の仕事に戻って」
と、その先輩メイドは私に耳打ちした。
というわけで、私はその日、それで女王陛下と別れ、元の役目についた。
そして日付が変わって一時間ほどたって、夜勤の任も解かれ、明日女王陛下のお供をせよ、と指示が出された。
「あらら~」
あれよあれよという間に状況がいろいろ変わって、大変な一夜だった。
「まぁ、なるようになるかぁ……」
急変に強い私だ。
「……リュカに会うまで、頑張ろ……」
追懐の中のリュカ、そしてこの世界のどこかにいるであろう本物の、成長したリュカの姿を想像して、眠りについた。
同日同夜。
中央構造体から北へ数十㎞。
サキュバス率いる魔族の軍団が、移動していた。
「ゴーレムスーツを失ったのは痛かったですね」
サキュバスを守る巨人、ダナンが肩に主を乗せて言う。
「……まぁ、あんたにはどのみち必要ないでしょうけどね。シルキーたちは電子戦以外じゃ殻が無ければ戦えないから……。予定ではエイラントのパワードスーツを奪取するまで、ユーエリカで押すつもりだったんだけど……」
「彼女を失った今、言っても詮無しですな。パワードスーツの数が足らぬ状態では、人間共に痛撃は与えられますまい」
「ええ……」
ダナンの肩から見る光景、地平線の先にカレンシア領の軍事拠点が見えてきた。
サキュバスは翼をはためかせ、空を飛ぶ。
「先行する。敵中枢沈黙後にゴーレムスーツ格納庫を抑えろ。今回は殲滅を目的とはしない。人間が逃げるようなら追わなくて良い」
黒髪をたなびかせ、サキュバスが天を翔る。
夜陰に黒の髪と翼は溶けて、白い肌だけが雷光のように走った。
人々に恐怖と混乱をまき散らす雷霆。稲妻は音もなく、静かに、妖しい光だけを纏って人の住む地に舞い降りようとしていた。
雷鳴が轟くのは人々の悲鳴と同時で、そして、その時にはもう、全ては終わっているのだ。
「うわぁ……!」
次の日、モーム伯爵領、重魔術兵器工房に連れられていき、私はそれを見上げた。
「すっごく……大きいです……!」
手を大きく広げる。
「これがゴーレムスーツなんですね!?」
「ええ。最新鋭のコン級ですわ。まだ兵部の鑑査を受けてはおりませんが、地球古代遺跡の積石配列を正確にトレースし、性能とビジュアルを両立させた芸術品にしあがっていますわ!」
工房の職人頭、金髪巻き髪の美女がすすまみれの鼻をこすりながら説明した。
彼女の言の通り、たしかに格納庫に収められたコン級ゴーレムスーツは、無骨なゴーレムというより、壮麗な機械人形だった。
「基本的な武装として魔導投射砲2門、レイライン・レイガンが6門。エイラントの地上、航空兵器全種を撃破可能ですわ!」
ふふん、と胸を張るカシラ。
残念ながら胸はちっちゃい。
「防御は、従来の浮遊シールドを二枚に減らし、その分マナ・ジェネレーターの自由度を上げましたわ。結果……なんと! 絶対的防御の代名詞! イージェス級装甲版を小型化して操縦席やエンジン部を守ることができるようになりましたわ!!」
「はー……」
よくわかんないや。
「ほう。それはすごいな」
女王陛下が、工房のお偉いさんとのお話を終えて、こちらに歩いてきた。
「イージェス級装甲版といえば、どんな攻撃を受けようとも装甲を復元させて、攻撃を無効化するというものだろう? しかし、それを実現するためには巨大な魔力が必要だ。だから都市を守るドームや、戦艦にしか使えなかったはずだが」
「ええ。そのためのマナ・ブースターにナノマシンを使っているのがこのコン級の新しいところで――」
カシラは女王陛下にも動ずることなく自信をもって自身の作を説明している。
「これにのって、故宮霊園に行くんですよね」
話の切れ目を狙って尋ねる。
「ええ。この……なんていったかしら?」
女王が職人頭の方を見る。
「コン級プロトタイプで、名前はまだありません。1号機から4号機はそれぞれイコン、ウコン、エコン、サコンという名前をつけたんですがこの子は……名付けていただけます?」
「あら……リリア、何かいい名前はない?」
「ほへ? 私ですか?」
「ええ。私は女王の仕事として頻繁に兵器に名前を与えたり承認したりしているから、折角だし、貴女がつけてみない?」
「う~ん……」
無い知恵を振り絞って考える。コン、コン……。
「ええと、じゃあ……キョコン号」
思い付いた名前を言ってみる。
「キョコン号……いいんじゃないかしら?」
「ふむ……大きい感じがする響きで、よろしいんじゃなくて?」
意外と、二人の感触はいい感じだった。
「それでは改めて。このキョコン号に乗って、故宮霊園に向かいます」
「はい、陛下」
私は頷く。
いざ、戦士たちの墓所へ!
「ちょおおおおおおおおおっとまったあああああ!!」
格納庫に叫び声が響いた。
皆が声の方向、格納庫の入口に視線を向ける。
「……!? お坊ちゃま!?」
声の正体は、バスティ・モームだった。
「あなたは確か、モーム伯爵の……」
「はっ、陛下。モーム伯が長子! バスティ・モームにございます!」
きりっ、と背筋を正し、バスティが敬礼する。
「このバスティを護衛におつけ下さい! 陛下のお世話をするメイドはリリアで十分でしょうが、護衛が必要かと!」
「護衛、ですか……あなたはゴーレムスーツを動かせますか?」
「はっ! 実戦こそありませんが、訓練は済ませております!」
「そうですか……」
女王はしばし沈思黙考し、
「では、故宮霊園までの護衛を頼みます。国境が近く、ここから霊園までは例の魔族との交戦地域を通過しなければなりません。よろしいですね?」
「ははっ! お任せください!!」
ということで、私と陛下とお坊ちゃま、この3人で出発することになった。
「それにしてもリリア、お前、メイド服のまま乗るのか?」
と、バスティ。
「はい。何か問題が?」
「いや……まぁいいが、乳が強調されるタイプのパイロットスーツも中々良いものだとおもうんだが」
「…………それは次の機会に」
ちょっと心引かれた。
「ふっふっふ、女王陛下を見事エスコートしてみせれば、あの爆乳が私のモノに……ふっふっふ」
バスティは怪しく笑いながら、ゴーレムスーツの胸部コックピットへ続くキャットウォークを通り、操縦席へと乗り込んだ。
ゴーレムスーツは二機。
コン級プロトタイプ、キョコン号に私と陛下が搭乗。
コン級4号機、サコン号にはバスティ・モームが乗った。
ちなみにコン級は単座であるが、プロトタイプは複座型だ。単座では100%能力を引き出せないが、複座ではコストがかかりすぎるため、量産型は単座になったらしい。
「で、では私が操縦席に座りますけど、いいですか? 陛下」
「ええ。自信を持って。神聖魔族のあなたの力なら、手足のように動かせるはずよ」
キョコン号の操縦者は驚くべきことに私だ。
ゴーレムスーツの運転は、神聖魔族なら超楽勝、だそうだ。
「私、神聖魔族とかいうのじゃないですってば……!」
「はいはい。それじゃ、このEカードの認証部に指を当ててから、操縦席中央のスリットに入れて」
「Eカード……ですか」
陛下の手から一枚の無機質なカードを受け取る。なんだか心がざわざわするカードだ。
とりあえず言われた通りにし、Eカードを入れる。
ヘッドアップディスプレイが光った。
METHという単語が浮かび上がり、やがてEの文字がその単語の頭にくっついた。EMETH。真理をあらわす言葉だ。
そして次の瞬間――
全方位モニタに魔力と電力が通り、操縦席の周囲に、外の光景が移った。まるで浮いているみたいだ。
続いて、動力に火がついた。
ドンッ、という振動がコックピットを揺らす。
ゴーレムスーツに力が充填され……私に流れ込んできた。
「こ……これ!」
「あなたのマナと、ゴーレムのマナ・ジェネレーター、そして外界のマナが同期しはじめているんです。心を穏やかに、体の力を抜いて、血液がゴーレムに流れ、そして戻ってくることをイメージしなさい」
「はい……」
目を閉じるでもなく、見開くでもなく、心身を研ぎ澄まし、肉体の延長にある力を意識する。
腕、脚、体、頭。
完全同期。
「いきます」
声とほぼ同時に、足を踏み出す。
一歩、二歩。
「いいですよ……ARを展開します。これらが今貴女ができることです」
拡張現実が視界に重なる。
自分の体が大きく、かつ繊細になった感覚。
今、私の足は時速百キロ以上を出すことができる。飛ぶこともできる。
腕は岩一つぐらいなら投げ飛ばせる。重々しい大口径砲も構えられる。
「すごい……これ、なんでもできそうです……」
「ええ。とりあえず格納庫を出ましょう」
指示の通り、格納庫を出る。
外。開ける視界。
マナによって、私とゴーレムスーツ、そして周囲の自然は一体化されている。風や匂いまで感じられそうだ。
「普通なら、慣れるまで1ヶ月はかかりますが、どうです? 処理しきれますか」
「なんだか……気持ちいいです。左手の温かさが、全身にまわったみたい」
「神聖魔手の効果もあるんでしょうかね……一緒にいる私まで温かい……。では、地図データを送ります。故宮霊園へ」
「受け取りました……行きます!」
キョコン号が出撃する。
戦闘するかは分からないけれど、これは確かに兵器だ。
出会って一時間もたっていないけれど、私は、キョコン号の全てを知っていると思う。
だからわかる。
これは戦うために生まれてきたもので、ただ人を運ぶためのものじゃない。
どくん、と心臓が強く鼓動する。
もしかして私、すごい状況につっこんでるのかな……。
今更ながら、そう思った。
でも、すぐに、その恐れに近い感情は吹っ飛んだ。風景と一緒に。
加速加速加速、キョコン号は地図と交通情報から割り出した霊園までの最短距離を、ぶっ飛ばす。
地面を蹴り、スラスターを吹かし、空気を裂き、大地を疾走する。
巌のごとき巨人は、その重さを感じさせないぐらい軽快に駆ける。
「さて……貴公子、ついてきていますか?」
女王が通信機を使い、バスティを呼ぶ。
感覚的には見えるか見えないかぐらいの後方位置に、バスティ搭乗のサコン号がいる。
「っ、も、問題ありません!!」
きつそうな声が届く。
「リリアさん。ちょっとゆるめてあげて」
「了解で~す」
ほぼ全速力から、抑える。自分の肉体と違って、疲労というのがほとんどないから、つい走りすぎてしまったようだ。
「と、そろそろ進路も変更しましょう。そこを右に」
「え、でも、最短距離じゃ……」
「ちょっと障害があるんです。避けましょう」
「は、はーい」
よく分からないけど進路変更。右方へ。
しばらく真っ直ぐ進み、再度左へ曲がる。
「ここからは真っ直ぐです……魔族との交戦範囲が近いですから、探知機からの警告レベルを上げます。御曹司、あなたもいいですね?」
「はい!」
「はっ!」
レーダーには今のところ大した反応はない。一応、索敵範囲に引っ掛かるものはあるが、敵味方識別信号は味方という判定だ。
まぁ、周囲は田畑が広がっているだけで、人家もまばら、そんなところに魔物が襲いかかるメリットは無さそうだが――
「――っ、やはり、やられてしまいましたか」
副操縦席に座っているアデライナさまが歯噛みする気配が、背中越しに伝わってくる。
「なにかありましたか?」
「故宮霊園と国境を守る基地に反応がありません……まずいですね……」
「魔族でしょうか?」
「エイラント、という可能性も無いわけではありませんが、あちらも魔族の攻撃で混乱していますし……。対魔武装に切り替えましょう」
「はい!」
セレクターを動かし、武装を対物から対魔へ。
「そろそろ故宮霊園が見えてきそうですが……」
しかし、俄に濃い霧が広がって、視界が塞がってしまった。地図上では、故宮霊園まであと一息なのだが。
霧のさきにあるはずの霊園を見ようとして、嫌なものを感じた。
「坊ちゃま! 背中を守って下さい!」
「お、おう! 承知!」
二機のゴーレムで背中を守りあい、前進速度を緩める。
「何か見えましたか?」
女王が眉を曇らせる。
「殺気みたいなものが……」
霧の水滴に反射して位置は掴めないが、何かがこちらを、悪意を持って見ている、それが肌で分かった。
「……っ! こっちのレーダーにも感! 敵味方は不明ですが、かなり反応が巨大です!」
「ゴーレムスーツですか?」
「……最悪なことに、それより大きい……ノイズが多いですが、データベースには……」
女王が電脳に回答を要求する。
「ギガント……! ゴーレムの倍近い体高を持つ、巨人の魔物のようです……!」
「そ、それって……どうすればいいですか!?」
巨大な手足によってバラバラにされる最悪の映像が脳裏によぎる。
「接近せず、距離を保って戦えば……いえ、まずは回避を考えましょう。メインモニタにレーダーからの情報を重ねます。ギガントを中心に、左か右回りに迂回しましょう」
「左は丘、右は川沿いですか……どっちに行きましょ?」
「丘のほうがよさそうですね。いざとなったら高低差を利用してギガントを飛び越せそうです」
「では左!」
操縦桿を左へ。
マナを使った低空飛行モードと通常走行を細かく切り替え、緩やかに曲がる。
「巨人さんの反応は!?」
「くッ……追随してきてますっ……! 右に!」
「陛下! この私に撃滅を命じて下さい!」
バスティが叫ぶ。
「駄目ですっ!! ギガントの太腕に巻き込まれれば、いくら装甲が強力でも潰されますよっ!」
イージェス級装甲板は魔力ジェネレーターが果てるまで復元を繰り返すが、圧力をかけられ続ければ、一気にエネルギーが尽きてしまう。
「ギガント接近、こちらの射程範囲です!」
女王の言葉と共に
「撃っていいんですか!?」
「貴女の判断に任せます!」
「そんな~……」
どうすりゃいいの……?
武装の使用許可はあり、物理安全装置は外されている。
武器を振り向け、引き金を引けば発射される。
あとは、心理安全装置を外すだけ。
「でも……」
いきなりぶっ放すのはどうかなー、という気がする。
火器管制システム、FCSを呼び出し、選べる全武装を一列に並べる。
ほとんどの武装が一撃必殺を狙ったもので、なんというか、無粋という感じがした。
「ええっと、応用……?」
武器にはこんな使い方がありますよー、という情報が格納されていた。
薄い円環型膚板から情報を取り込み、高速で再生する。
「目眩ましかぁ……これならいいかな?」
ゴーレムに六門搭載されているレイライン・レイガンの出力を絞る。
「坊ちゃま! 3秒後発射、着弾後に全力前進よろしいですかっ!!」
「だー!! わかった!! 何も見えんがなあああああ!!」
霧が濃すぎて、電子機器を通した補正映像からしか情景がつかめない。
ただ、私には見える。
あっちからはこっちが見えている。どういう方法かは分からないが、こちらを正確に補足できている。
「3、2、1!」
カウントダウン。
「発射ぁああああっ!!」
小出力レイガンが、何の振動も音もなく放たれる。
「いっけええええええええええ!!」
霧を切り裂く光の弾。通常のレーザーと異なり、マナでパッケージされているため、目標に到達するまで私のコントロール下にある。
濃霧をかきわけのけて、目標の眼下に出る。
私はそこではじめて、巨人の姿を見た。洪大なるゴーレムを遙かに超える、至大なる人形の怪物。雄大さに加えて、緑色の皮膚が山っぽい。
光線の軌道を曲げ、巨人の顔……眼に当たるラインへ。
ギガントの顔がこちらを見る。
ギガントの眼は、不気味な眼光を放っていて、私はそれが魔眼なのだとわかった。これがあるから霧だろうがなんだろうが関係なく、こちらを捕捉できていたのだろう。
だが、レイガンに対応できるわけがない。射手と繋がっている分、光速よりは遅いが、十分に高速。
「っ!!」
光が炸裂した。
その瞬間私の意識はゴーレムスーツの操縦席に戻った。発射から着弾まで、おそらく1秒もないだろう。
「全速前進ですっ!」
ギガントが怯んだかどうか、眼を眩ませることができたかどうかはわからないが、ともかく、急加速する。
「……ぐっ!!」
加速によってシートに押しつけられる。
「へ、陛下! 魔眼への結界を……!」
「っ――! わかりましたっ!」
右肩の投影機を使用し、魔方陣を空に描く。
魔方陣にマナを通し、魔術を発動させる。結界魔術だ。周囲一帯のマナを閉じ込め、排他領域を築く。これによって、マナの流れを見る魔眼は惑わされる。
「これでしばらくは――!?」
大丈夫。
声を発したアデライナさまも、私も、そう思った。
けれど、強く風が吹き霧が薄くなると、目の前に、あの巨人がいた。
「なっ……なんで!!?」
「こっちを見ています! 攻撃をっ!!」
焦ってレイガンを連射する。しかし、ピカピカ光るだけで、巨人は眼を細めるだけだった。
「出力出力!」
「あわわ……!」
出力を下げたまま上げるのを忘れていた。
「おおおおおっ!!」
後ろにいたバスティが、魔導投射砲をぶっ放した。
加速された徹甲弾が、巨人の胸あたりを狙って飛翔する。
だが、魔力の障壁と思われるもので減速させられた上で、巨人の拳が徹甲弾をたたき落とした。
「なるほど…………あの霧は巨人の索敵結界だったんですね……だからノイズが……! リリア、今の巨人は戦闘モードです! 全力攻撃を!」
「わ、わっかりました~!!」
レイガンの出力を上げ、全六門をギガントに向けて開口させる。
そしてレイビームを一旦外へ放出し、六本のビームを収束させる。
「一閃っ……集中!! 開放っっ!!」
大出力のレイライン・レイガンが、一本の激流となって、ギガントへと殺到する。
「っうぬ!?」
ギガントが目を見開き、唸る。
極熱の光が、回避しようがないスピードで迫り、ギガントはバリアをギリギリで展開した。
「ぐっっ!!」
光がバリアと衝突する。レイビームのその大熱量は、水のカーテンのようなバリアを蒸発させ、貫通。
減衰拡散には成功したものの、そのぶん、ギガントは全身でその熱量を受け止めることになってしまった。
「がああああああああああああっっ!!」
緑色の皮膚を焼き尽くされ、ギガントはその巨体を折り、悶えた。山火事状態。
「よし! 今だ!!」
バスティが嬉々として追い打ちした。
ミサイル、レーザー、ビーム、各種通常兵器をたたき込む。
丘が削れ、もうもうと砂塵と煙がたちこめる。
「やったか!?」
「どちらにせよここから離脱ですっ!!」
戦果を確認する間もなく、その場から離れる。
「ぐがあああああああああああ!!」
後方確認モニタに、怒り狂い、手に持った大槌を振りかぶって追いかけてくる巨人の姿が映っている。
「はわわ……!!」
丘を転がるように駆け下りる。
足元になんか飛んできて突き刺さった。巨人の槌かと思ったが、根本からごっそり抜けた大木だった。
「あ、あの巨人が投げたの……? なんてパワー……!」
背筋が寒くなり、アクセル全開で逃げる。
霧が晴れたおかげで、故宮霊園が見えてきた。
「っくうぅう、ギガントの速度が速すぎる……リリア! 上半身だけ後ろを向いて、攻撃しつつ霊園へ!」
「そ、そんな無茶な……こ、こうですか~?」
人間の体では不可能なこと、感覚的にできないことは難しい。
ぐりっ、とゴーレムの上半身が鳴動し、百八十度回頭。
目の前にギガントの顔が大写しになった。
「ひええええ……」
緑色の皮膚が剥げ、真っ赤な肉があらわになった、鬼のような形相。
おしっこちびりそう。
「こ、恐っ……いわね……」
陛下も恐いらしい。
「わっ、わっ、来ないで~!!」
迫ってくるでっかい顔。
私は半泣きになりながらレイガンを連射する。
だが、心が定まっていないせいか、射線がそれて、肩の肉をえぐるぐらいしかできなかった。
「がああああああ!! ぐぉおおおおお!!」
ますます猛り狂い、そこら辺にある岩や木を投擲してくる。
「や、やめっ! 危ないってば!」
当たらないが、そこら中に障害物が転がって散らばり、後ろ向き走行だとぶつかりそうになる。
「どわっ!」
あっ、坊ちゃまが転んだ。
ギガントがそれに狙いをつけて、豪腕を振り上げた。
避けるすべなく、サコン号は巨人の殴打をもろに受けた。
莫大な運動エネルギーをイージェス装甲版が吸収しにかかる。虹色に美しく輝く魔術障
壁と物理障壁の二つがダメージを阻む。
装甲の虹色がかすかに黒くよどむ。ちなみに真っ黒になると壊れる。
「くっ、はぁ!!」
巨人の拳骨からバスティは機体の身をよじって逃れる。
だが体勢を整える前に、再度、ギガントが振りかぶる。しかも今度は両手!
「危ない!!」
思わずかばう位置に駆け寄る。
「リリア!?」
バスティがゴーレムを立ち上がらせようと、もがきながら驚く。
「陛下っ、対ショック体勢を!!」
止めをささんと打ち下ろされる拳に対し、ガードを固める。
「リリア! 左手をかざしなさい!!」
「へっ!?」
瞬間的に言われたとおりにする。
が、ゴーレムの腕には大した装甲はない。気休め、お守り程度のものでしかないのだ。
それでギガントの搏撃を防げるわけが――
「えっ!?」
「ぐっ!?」
私と、ギガント、攻撃側と防御側両方が驚愕した。
私の左手と魔術的につながった、ゴーレムの左手。
その左手より一回り、いや二回り大きいギガントの拳、しかも両手なので×2。その絶望的な差。
だというのに、左手一本で、ギガントの攻撃を完全に受け止めていた。
「あ、え?」
何が何だか分からず、混乱する。
「…………ぐ、が…………ま、さか……?」
ギガントが呻き、力を込めていた両腕を引っ込め、一歩二歩、後退した。
「……王…………なのか…………?
「ん?」
何かギガントが人語で喋ってる気がするのだが……。
「ふむ……?」
陛下が、首を傾げる。
そしてその奇妙な戦闘の空白を経て、ギガントはさらに後退し、霧を出しつつ撤退していった。
「逃げた、んでしょうか?」
突然の事態に一歩も動けず、私たちはギガントを見送った。
「そのようですね。レーダーの反応も遠ざかっています……事情はわかりませんが」
「なんだか、不気味ですね」
「ええ。でも、こういう時は、ラッキーだと思えばいいでしょう。私たちは霊園に行くだけなのですから。基地の奪回は国軍に任せましょう」
直立不動状態だったゴーレムを動かす。
「あ。そうだ。バスティ様はご無事ですか?」
「心配するのが遅いわ!」
ギガントの大打撃を受けつつも、無傷っぽいサコン号が、キョコン号の隣に並んだ。
「大丈夫そうですね」
「…………ふん。助けられる必要なかったぞ」
不満げに、口を尖らせる姿が通信モニタに映る。
「じゃあ、行きましょうか」
気を取り直して、目的の場所へ。
何をやるのかはわからないけれど、ここまで危険を冒して来たということは、女王陛下にとって、よほど重要な用事があるんだろうな~。
そんなことを思いながら、近いようで遠かった戦士たちの墓所、故宮霊園の敷地に突入する。
「あ……れ? なんだか荒れてる?」
整然と並んだ墓には何ら異常なところは無かったが、中央の王墓へ続く道をよく見ると、多数の人間が踏み荒らした様が見て取れる。
無数の靴跡、車輪の跡、巨大な凹みはゴーレムスーツの足形……?
「…………」
女王は無言で、レーダーをじっと見つめている。
「あの、ゴーレムから降りなくてもいいんでしょうか?」
「ええ。このまま真っ直ぐ……突き当たりを右です」
指示通り動くと、墓もなにもない、王墓のある宮殿の真下に出た。しかし、入り口は無く、まっさらな壁が立ちふさがっていて、完全な行き止まりだった。
「どうするんです?」
「ちょっと待っていて下さい」
と言うなり、陛下はゴーレムスーツから降りた。
そして無機質な壁に近付いていき、手のひらを当てたり、何事かつぶやいたりして、儀式めいたことをした。
すると。
カチリ、カチリ、と壁の中の機構が作動する音がした。
「扉が開きますから、中に入って。御曹司、あなたはここで待っていて下さい。二機が入ると身動きが取れなくなりますから」
戻ってきた陛下が、副操縦席に座りながら言った。
陛下のいうとおり、壁は扉だった。
継ぎ目もなにもない、まっさらな壁だったのに、ぽっかりと大きな穴、ゴーレムスーツ一つなら通れそうな扉が開く。これは、知らないと分からない仕掛けだろう。
「入ります!」
バスティ坊ちゃんを残して、隠し扉をくぐる。
余裕があるとはいえ、外と違い、壁とか天井とかにぶつかりそうなので、慎重な操縦で内部へと足を踏み入れる。
宮殿の中は細長い通路が続いていて、少しずつ下に傾斜していた。
「地下、ですか?」
「ええ。そこに初代女王が眠っています……」
「初代女王?」
「真の女王陛下です。あなたが看破したように、私はガイノイド……女性型アンドロイドです。あらかじめ定められた寿命まで、女王の代りを勤めるのが役目の……人形です」
「…………」
アンドロイドだということはわかっていたが、彼女の口から告げられる真実に、私は呆然とした。
「ここまで来たのは、女王陛下に、道を示してもらうためです」
「道、って……?」
「私たちは今、国難と向き合っています。一つが、先程の魔族との戦い。二つに、つい先日、宇宙空間で争いになった、おそらくエイラントの超兵器と思われるものとの戦い。そして最後に――」
減速がはじまり、陛下が言葉を切る。
「到着したみたい、ですね」
初めて来たのでよくわからないが、明らかにゴーレムスーツでは通れない、強化防護扉がひとつぽつんと暗闇に浮かんでいた。
「行きましょう」
保護帯を外し、陛下が先んじて降機する。
私も胸部分のコックピットから、緩降ロープをつかって着地し、陛下に続く。
地味で質実剛健な扉を抜けると、広大な皇霊殿に出る。
「!? な、なにこれ!?」
真っ白な大広間が、ボロボロになっていた。
壁が崩れ、床や天井が黒く焦げ付いていて、内部で爆発があったとしか思えない状況。
「……まったく、不敬な」
何があったのかと訝る私を尻目に、アデライナ様は嘆きながらも、驚かずに、部屋の中心へと進んでいった。
あたりから、かすかに水音が聞こえる。人工の川だ。此岸から、橋を通り、彼岸へ。
部屋の中央にある円台の、土台部分の階段を上る。
土台の上には、透明な冷凍睡眠装置が鎮座していた。
「この御方が――」
睡眠装置の中には、アデライナ様に酷似した顔の、眠り姫がいた。
「真なる女王。アルデリカ・クーンツ陛下です。私のみならず、近世の女王は全て、この御方の名代にすぎません」
「そ、そうだったんですか……」
一応、カレンシアの歴史は学んだが、歴代女王について深くは知らない。ただ胸が皆おっきかったことだけはしっかり記憶している。
「ええと、それで、冷凍睡眠に入っているみたいですけど、起こすんですか?」
「いえ……私は、神聖魔族を……貴女をここに連れてくるように言われただけなのです」
「えええええ!? わ、私にどうしろと……?」
「何か感じませんか? 冷凍睡眠装置からでも、この部屋からでも、何か……」
陛下は上目づかいに、私に尋ねた。すがるように。
「う、う~~ん」
そう言われても困る。しつこいけど、私は神聖魔族とかいうものじゃないと思うし。
どうしよう。
首をひねりながら、コールドスリープ用の透明ケースを中心にぐるぐると何回かまわる。
「何か文字が書いてありますね」
アデライナ様も一緒に、アルデリカ様が眠る円筒形の周りをケースをぐるぐるまわる。
「ええと、こっちは歴代女王の名前かな? ……こっちは冷凍睡眠魔術の呪文で、こっちは……?」
「目覚めるは、王子の口づけのためにあらず……? 眠り姫にかけてるんですかね?」
「…………ということは」
女王は、はっ、と何かに気づき、ケースの操作盤をカチカチといじった。
ズン、とケース内部で大仕掛けが動く振動がして、冷気が排出された。
ケースの上蓋が動き、アルデリカ女王陛下の体が外気にさらされた。
「……こ、これで目覚めるんですか?」
「いえ。機械的コールドスリープの解除だけやりました。しかし、魔術的なコールドスリープ、というより時間封鎖ですね、そっちの解除はコンソールじゃできないんです」
「はぁ。それで、そっちはどうするんです」
すると、アデライナ様は、私を正面から見て、真顔で、
「キスして下さい。あなたが」
と、言った。
「……………………はい?」
耳を疑った。
「アルデリカ陛下に、あなたが」
「…………あの……私……女なんですけど」
「知ってる」
「…………」
「やって下さい」
「…………う、うん…………しまちゅ…………」
噛んだ。真顔で押されて押しきられた。
「じゃ、じゃあ、リリアいきまーす……」
ケースの中、やわらかそうな寝台に横たわるアルデリカ陛下。アデライナ様そっくり。性格きつそうな、長身美人。身体が細い分、胸がやたらでかく見える。
…………どさくさに揉んじゃおうかしら。
アデライナ様の胸は一度揉んだけど、あまり感触をしっかり楽しめなかったし。
眠る、アルデリカ様の整った顔を見下ろし、ゆっくりと腰を折る。
唾をのみ、舌で唇を湿らせる。
女だけど、ハンサムな女王陛下の顔はドキドキするなぁ。
右手を女王の頬に添える。まだかたく、つめたい。
顔を寄せる。
ひそかに左手を胸の方に伸ばす。身体に覆い被さるように、手を胸に当てる。で、揉む。
って、硬っ!
時間停止してるせいなのか、胸が硬っ!! やだこれ楽しくない!
「っ……ぅ……」
ほぼ同時に、顔が最接近し、唇が微かに触れる。
ち……ゅ……。
秒数にして、1秒。
もういいか、唇を離そう、そう思った時、唇が押しつけられた。私の意志じゃない力がかかり、唇が深く重なる。
「んむっ……!? ……ふむ……ちゅむ……!?」
熱が、じわりと唇と唇の間に発した。人の熱。肉の熱。
驚きに目を見開いた。
で、目があった。
女王と。
「……ちゅぅう……、ちゅぽん」
ぼうっとしている私の唇を一吸いし、女王、アルデリカ陛下は、被さっている私の顔をちょいっとずらし、上半身を起こした。
身体の調子を確かめるように軽くストレッチしたあと、硬直している私たちを一瞥し、
「おはよ」
と、挨拶した。
「へ、陛下……!」
感無量、という感じで、アデライナ様が膝を折り、祈るポーズをとる。
「陛下って、あなたも女王でしょ……」
苦笑して、アルデリカ様が立ち上がり、歩き出す。
そしてアデライナ様に近づき、抱き寄せる。
「よく頑張ったわね。私の娘」
「いえ……いえ」
アルデリカの胸に顔を埋めて、アデライナが涙声で言う。
「予知から外れた行為をしてしまいました。魔族の王の力を借りて……」
「完全な予知は、完全な無知。毒にも薬にもならないわ。石橋を叩いて叩いて、渡らないようなものだもの。ともかく、大儀でしたね」
と、アルデリカ様が振り返り、
「あなたも。名前は、リリア・ヘンデで良かったかしら?」
「は、はい……あ、あれ、名前……」
名のってないよね? もちろん、昔会ったこともないし。
「あなたの両親と、ちょっと面識があるのよ」
「そうなんですか!?」
「ええ。そのこともいつか話したいけど、今はここを出ましょう。そろそろ反乱軍が戻ってきますよ」
「反乱軍?」
なんの話?
首をひねる私に、アデライナ様が、
「ごめんなさい、さっき言いかけましたが、この国の危機、最後の一つです。我がカレンシア女王国の反女王派が反乱を起こしました」
「………………え」
「ここら一帯が反乱軍制圧地域に含まれています」
「え、え、ちょっと待って下さい」
「じゃ、とっとと逃げますよ! 早く!」
女王二人がその場を離れ、出口に向かう。
「…………ええー」
私はその背中を追うが、心は置き去りになっていた。
そして心ここに非ずのまま、ゴーレムスーツの操縦席にまで戻ってきていた。
「敵……首魁はマラート宰相でしょうか?」
と、アデライナ。
「さてね。可能性としては一番だろうけど……だからこそ、こんなわかりやすいクーデターに乗るかどうか」
「彼は……私をとても嫌っているので、その不満が、女王陛下に向かってしまったのではと……」
「ふむん。ま、貴女は私だから。罪も罰も変わらないわ。とりあえず、モーム伯のところへ向かいましょ」
「はい……ん、モーム伯といえば、バスティ・モームはどこへ?」
「あ、あれ?」
なんとか現実に帰ってきた私は、ゴーレムで宮殿の外にまで出た。
「いませんね。レーダーはどうです?」
「…………反応がたくさん。これはおそらく……」
「ぜーんぶ反乱軍ね」
「……わ、わーお」
嫌な汗が出てくる。
「ほとんどがカレンシア軍の保有するゴーレムスーツだけど、コン級の反応がないってことは……」
「坊ちゃま……」
星になっちゃったのか……悪い人ではなかったのだが。真昼の空にキラリとなにかが光った気がした。
「女王、アデライナ・クーンツに告げる!!」
と、突然、私でも女王様たちでもない濁声が響いた。
通信帯を使用していない、ただの拡声器をつかった大音だ。
「我らはすでに首都カーリアを制圧し、女王国の半分を占領している! 降伏せよ! さもなくば、三原則強制遵守命令を発する! 最後まで女王として生き、大権を禅譲することをすすめる! 繰り返す――!」
そして同じ通告を繰り返す。
「無視無視……しかし、下手な命令を飛ばされると厄介ね。リリア」
アルデリカがなにやらごそごそツールボックスを探りはじめた。
「はい?」
私は斜め後ろを振り返る。
初代女王陛下は、手に縄を持って、私に差し出した。
「アデライナを縛っておいて。手足もね」
「え!?」
「ええ!?」
私とアデライナ様同時にびっくり。
「自爆回路とかは無いけど、ゴーレムスーツから飛び降りたりされても困るから」
「は……はい」
色々縛る用の長い縄を受け取る。毛羽だってたりしない、良い縄だ。
「じゃあ、縛っちゃいますね……!」
「……ええと。お、お手柔らかに……?」
従順なことに、ちょこん、と床に座り、アデライナ様がこちらをみる。
「では……失礼して……」
私は女王に縄を掛ける。
舌なめずりしたい気を抑え、身体の各所を括る。
時間はないが、適当にやったり縛りを省略したりはしない。美しい、幾何学的模様を身体に描いていく。
亀甲縛りというやつだ。メイドのたしなみだ。うん。
当然のことながら、胸はぐぐっと絞り出すように強調させる。
「ふっ…………くっ……」
力はそこまで入れていないが、身体を締め付けられる感触に、アデライナは声を漏らす。
「痛かったり、苦しくはないですか……?」
「ええ……動きは制限されるけど、動かなければ……でも、動かないことって難しいのね。こうなってみて初めてわかるわ」
「それじゃ、リリアはアデライナを抱えていて。操縦も火器管制も私がやるわ。マナの供給だけお願い」
アルデリカ様が立ち上がり、操縦席の脇に移動する。
「は、はい」
アデライナ様を抱きかかえ、副操縦席に移る。
「シートベルトはOK? 私のマナと同調させるわよ」
「はい……」
膝の上に乗ったアデライナ様の身体が生々しく感じられる。マナを通す魔導管を握り、集中しようとするが、煩悩がぐるぐると意識をかき混ぜる。
「なーんか不純物が混ざってるんだけど……まぁ、いいか」
アルデリカ様は肩をすくめ、ゴーレムを再始動する。
今までとは違う、ゴーレムの駆動音。操縦者が違うだけで、ゴーレムはまるで違う兵器になるのだ。
「初代女王陛下も今生きておられれば、機械人形に女王を代行されることなど望みはしないだろう! 仮初めの女王、アデライナよ! 降伏せよ! 女王国の誇りある歴史への回帰のために!」
降伏勧告は続いている。
「…………」
「…………」
初代女王も現女王も口をつぐんでいる。あ、縛ってはいるけどアデライナ様に口枷はつけてないよ?
「あと1分待つ! ゴーレムから降りて、霊園中央道に出よ! 従者や従兵の命は保障する!」
「………………人芥め」
ぼそり、と、アルデリカはつぶやいて、ゴーレムスーツを急発進させた。
「わっ!」
舌を噛みそうになった。
「しっかりつかまっていろ!」
私が動かしていたときのゴーレムが木偶に見えるぐらい機敏に、キョコン号が駆け出す。
隘路を抜け、霊園中央へ。
「っ! と、止まれ!!」
墓立ち並ぶ広場の左右に別れて展開していたゴーレム部隊と、墓の間に展開していた魔砲部隊。その二つを前にして、キョコン号はノンストップで中央突破を駆ける。
「ちぃっ!! 強制遵守命令、発動だ! 電気信号、魔術信号を継続発信しろ!!」
ピクン、と私の腕の中で、アデライナ様が身じろぎした。衝動に耐えるように、身を縮こまらせる。
ぎりっ、とアルデリカ様が歯ぎしりして、ゴーレムの速度を上げた。
「止まらない……!? こ、攻撃するぞ! 撃てっ! 撃てぇええ!!」
刃向かってくる私たちを見て、その命令一下、反乱軍が発砲を開始した。
通常兵器、魔術兵器全部あわせて百を超える射線が、キョコン号を狙っている。
「ふぅっ!」
アデライナ様が深く息を吸う。
レイライン・レイガンをつかい魔力を解放。解放。解放。巨大出力の光弾を連続射出し、光の球を形成し、次の瞬間、恒星のごとき光を膜にして広げた。
半球形の光のバリア。
敵の攻撃は全弾着弾し、全弾無駄玉となった。
「はっ!!」
一気に息を吐く。
光の膜がぎゅうっと縮み、今度は無数の針と化す。
そしてそれを走りながら数十本単位で放ち、敵を追い払い道を作る。敵ゴーレムたちは瓦礫にこそされなかったが、脚や腰を破壊されてバランスを崩し多くが地に倒れた。
「すご……」
兵器の使い方を熟知した戦法だと思った。
「貴女の魔力量のおかげよ。これだけ汲んでも、底すら見えない。こんな豪気な使い方、一軍率いるフラグシップじゃないとできないんだから」
「はぁ」
「振り切るわよ」
最高速度まで加速しながら上昇し、飛翔する。
先程の完全防御から広範囲攻撃につなぐ急転直下の連携に、敵は態勢を崩し、私たちを追う素振りすら見せられなかった。
軍集団を突破すると着地し、地上走行に切り替える。スピードとしては空の方が出るのだが、どうがんばっても発見されやすくなるからだろう。
「どう、アデライナ? 大丈夫?」
サブモニタでこちらをみて、眉間に皺を寄せる。
アデライナ様は、目に見えて苦しんでいた。抱きしめている私は、彼女の震えと発熱を肌で感じていた。
「大丈夫です……私…………このままでも……もう…………」
もう……? なんだろう。
熱い吐息と共に、うわごとをつぶやいている。
「駄目そうね……とっととモームの館に行かないと」
私たちは帰路を急ぐ。
身体を丸めて耐えるアデライナ様。
「……」
私は、さっき反乱軍の誰かが言っていた事を思いだしていた。
「機械人形」「仮初めの女王」
そして彼女自身が言っていた、
「真なる女王」
他人には、機械仕掛けの偽物と蔑まれ。自分も、偽物だと自覚して。
結局、彼女は、何者なのだろう。
私は彼女を心持ち強く抱きしめた。熱い熱い体温の向こうに、その答えを探して。
「さて、アデライナを治すためには――」
モーム伯領館に戻ってきて、アルデリカ様が腰に手を当てて仰った。
「リリア、あなた、この娘を抱きなさい」
「………………」
もう、驚かないぞー。女王陛下の言動には驚かないぞー。
「ちょっと、聞いてる?」
「………………はい。何かおっしゃいました?」
私は、無の心で、いろいろ無かったことにした。
「抱きなさい。この子を。強制停止命令のキャンセルには、精神の深層帯にアクセスしないと駄目だから」
「それでなにゆえアデライナ様を抱っこしなければならないんでせう?」
「心の深層に触れられるのは、神聖魔族だけ。ちなみに抱っこじゃなくて性交だから」
「わたくし女なんですが」
「知ってる」
女王陛下はぴしゃりと私の言を封じる。
「女だからできないわけじゃないでしょ。無理でもなんでも通しなさい」
「う、うう……」
どうやるの? とは訊けない。だって、知っているから。
「それに、一度やったことあるでしょ?」
「へ?」
「私は、最悪、アデライナが死ぬ可能性も考えていたわ。三原則強制執行は、アンドロイドにとって死の宣告に近いから。でも、核心部分、言語回路も精神回路も停止はしていない、身体が動かせなくなっているだけ。おそらく、自縛回路……爆発する方じゃなくて縛るほうの回路の一部機能が外れていたんでしょう」
「あ……」
そういえば、お風呂で身体を洗った時、何かが外れた感触がしたような……。
「それと同じようにヤればイけると思うわ」
「…………わ、わかりました。それで、アデライナ様は楽になるんですね?」
「ええ……それでも駄目なら、エイラントに連れて行って完治させるわ」
「…………陛下は……、アデライナ様を、大事に思ってくださっているんですね」
「…………私の責を背負わせてしまって……、まったく、この国の建国のすぐあとに眠るべきじゃなかったわね……」
アルデリカは、唇を強く噛んだ。
私は、一歩、踏み出した。
「治しましょう。私にできることは全部やります」
「……ありがとう……それじゃ、わたしは席を外しておくわね」
「はい」
アルデリカ様が退室するのを見送って、私は、深呼吸する。
そして、ベッドに眠るアデライナ様を見る。
「……はっ…………ぁ……ん……」
重い風邪をひいたようにうなされる、女王。
あまり意味はないが、服を着替えさせ、汗を拭いたり、冷却膚板を貼ったりはすでにしてある。
楽にして差し上げなければ。
決意してエプロンドレスをいそいそと脱ぐ。
どくんどくんと高鳴る鼓動をおさえて、ベッドの傍にまでより、掛け布団をはぐ。
パジャマ姿で横たう美姫。
まずは寝間着の上から、ボタンを一つ一つ外す。ブラジャーはしていない。だから、ポロッと、おっぱいが飛び出た。思わず揉んだ。ぎゅむっ、と擬音が出るぐらい肉感を楽しんだ。
「っ……? え?」
目を閉じていたアデライナが、薄目を開けてこっちを見た。
ぼやけた瞳。何度も瞬きをしてこちらを確認する。
「……リリア?」
「お加減はどうですか、アデライナ様?」
「……ええと、だいじょうぶ……というわけではないけど……なにやってるの?」
「……治療をば」
自分で言ってて嘘くさいと思った。
「そうですか…………お手数をかけます」
「い、いえ」
熱障害で認識がおかしくなっているのか、アデライナ様は信じた。
ちょっと罪悪感を覚えた。
でも目の前の、手のひらの内の、禁断の果実には逆らえないのであった。
くい、くいっ、と柔らかな豊乳をこね回す。
力を入れればそのぶん指が沈み込み、ちょっと力を抜けば押し返される。感触の妙。
「ん……はぁ……なんだか…………楽に……」
アデライナ様の呼吸が、ちょっと穏やかになる。
よしもっと揉むぞと、彼女の身体をまたぎ、馬乗りになる。体重をかけて彼女に負担をかけないように膝立ちになり、おっぱいに上から被さる。
下から上にすくい上げるように持ち上げ、戻す。ぽよん、と蠱惑的に震える。
「すっごい……このボリューム」
一度触れたことはあるけれど、真正面から正攻法で揉んだことはなかった。だから、夢中になって触りまくる。
「……ふっ……あ……、んあ……っ……」
激しい愛撫に、アデライナ様が悲鳴のような小さなあえぎ声を漏らす。
「我慢しないで……声上げてくださいね?」
「……ぇ……で、でも……」
羞恥からか、ためらう女王陛下。
「えいっ」
さっきまでほとんど触れていなかった乳首を、くいっ、と引っ張る。
「ひああああああああああっ!!?」
びくん、と心持ちのけぞり、長く高く叫ぶ。
「あ……はっ、はぁ……んぁ……」
唇の端によだれをつけて、肩で息をする。
その艶がのった唇に吸い込まれて、私は、自分の唇をそれに重ねた。
「んん……!? ん……ふ……ぁ」
かすかな甘みさえ感じられる、液果のような口唇を味わう。
「ちゅ、……ちゅぅ……う……ちゅぷ……」
音をたてて唇を吸い、舌を入れる。
「ん、んんん!?」
アデライナ様はその感触に、顔をそらせようとするが、逃げ場が無く、逆に舌をからめ取られる。
熱い舌が触れ合い、とけあう。
「ちゅぱ、ちゅぷ……ん……くちゅ……ちゅう……んん……!」
深いキスと一緒に、乳首への愛撫も忘れない。
親指と人差し指で挟んで刺激する。
「ん……! んん……ぷはぁっ……! そ、そこ……や、やめて……!」
口ではいやがっているが、身体はまったく抵抗していない。
まぁ動けないから抵抗できないんですけどね。
「今、気持ちよくして差し上げますから……」
左手で乳房から乳輪、乳首までを揉み解す。
「ふっ……くぅうううう!!」
強く弱く強く弱く、優しく激しく優しく激しく、ランダムに、気まぐれにオッパイを攻撃する。
「あ、はっ、ひゃ、ぅあ、ぃあ……! はぁ、はっ、んん……!!」
ぐるぐると渦を巻くように定まらない快感に、ほとんど動かない体を震えさせてよがる。
「どうですか……? いけそうです?」
「そ……そんなの……わかりません……だ、だいいち、……女王代のガイノイドである私に……、そんな必要ない機能が、あるわけ……な……ぃ……ひ!」
力を込めて、乳首をつまんで引っ張った。
「ゃあああああああああ!!!」
絶叫。
動かなかったはずの身体を、びくんびくんとはねさせて絶頂し、パタン、とまたベッドの上に倒れた。
「あ~……は、ひ……あ、……は……ああ……」
息も絶え絶え、はしたなく涎を垂らし、女王とかガイノイドとか何の意味も持たない、乱れた女体をさらして、アデライナ様は喜悦の表情を浮かべた。
「これで……楽になりました?」
絶頂させた瞬間、またひとつ、何かが外れる感触がした。
「はっ……はい……」
遠くなっていた目の焦点が、ようやく手前に戻ってくる。涙の浮かんだ眦を、こすりこすり、アデライナが口を開く。
「熱は……下がった気がします……、身体の表面はちょっとまだ火照ってますけど……」
それは性的な熱です。
「ん~、体はまだ動かないんですね……? それなら、もう少しかな?」
「…………あの……私、なにやられてるんでしょう?」
熱が引いて冷静になったアデライナは、己の身体に私がのし掛かっている状況、さらに上半身をはだけている自分を見て、目を丸くした。
「治療です!」
私は断言した。
「…………えー」
疑いの目を向けるが、私は無視した。
だってまだ終わってないし。
「次はやっぱり、こっちですかね……?」
と、私はアデライナ様の下半身に手を伸ばした。
「!!?」
手をパンツの中へ突っ込まれて、さすがの女王も仰天した。
「うーん……さすがにまだあんまり濡れてない? でも、安心して下さいね。こういうのは私得意ですから!」
少なくともゴーレムスーツの操縦よりは熟練しているもんね、と鼻息荒く、私はアデライナ様の膣口近くに指を這わせる。当然左手だ。
「ちょ……ちょっと待ちなさい……!」
大きな声を出すのはつらいのか、か細い声、しかし厳しくとがめる口調で女王は静止を命じる。
「待ちません……! 待てません……!」
私自身も興奮している。今まで、同性の子、女の子への欲望は抑えに抑えてきた。あそこどころか胸にだって触れたことは無い。
だが、アデライナ様のオッパイを全力で揉み揉みしたことにより、こっちのたがも外れてしまった。
「はぁはぁ……」
「ちょっと……! な、なにをする気ですか!」
「治療だって言ってるでしょう!」
逆ギレしてみた。
「う、嘘を言いなさい! くっ、……はぁ……ゆ、指入れないで……!」
「駄目です挿入します、ほら、こんなに熱くなって……入っちゃいますよ……!」
愛液をまとわせて、ちゅくっ、と淫らな音色を奏でながら、2本の指を沈み込ませる。
「ひ……っ、あ……!?」
肉襞をかきわけ、第二関節ぐらいまで入ったところで、かなりの抵抗を感じた。
「っ、い、痛い……痛いですから……!」
「んん……? 膜? 処女膜?」
ガイノイドにも有るのかどうかはよくわからないが、そういうことにしておいたほうが良いと思った。ファンタジーって大事だよね。
くい、くいっと入り口あたりを探るように刺激する。傷をつけないように優しく。
「くっ……ぅうう」
弱めの刺激が溜まって、指先ではっきりわかるぐらいとろとろになっていく。
「さて……次いきましょうか?」
私は指を引き抜き、膝立ちで後ろへ下がり、アデライナの下半身に私の顔が来る位置へ動いた。
「ちょ……!」
とどめようとする声が届く前に、口を彼女の股ぐらに埋めた。
「ふぁ……!?」
複雑な陰唇の端っこ、少しだけ顔を出している陰核に口づけする。咥えて、舌で舐める。
「や、ぁああ……!」
見たくないとばかりに、目をそらし悶えるアデライナ様。
「ちゅっ、ちゅぱ……れろ……れろ、ちゅぅう」
「んあああああああ!!
腰を脈動させて、喘ぎ叫ぶ。
追い込むように、クリトリスをなめ回すと共に、指挿入を再開する。
「く……ひ、ぁああ、んぁああ!!」
愛液が入り口だけでなく、その付近にまき散る。
指の出し入れがスムーズになったことを確認すると、
「…………そろそろ、いきますね?」
もうすでにうずきが限界だった自分の一物に、左手を添える。
「ふぁ……んん……?」
刺激が途切れて訝しく思ったのか、そらしていた顔を戻して、こっちに視線をあわせる。
「ふぇ!?」
そして一驚した。
それはそうだろう。
女であるはずの私の左手に乗った、モノ。
明らかに陰茎。男根。ペニス。
「そ……それ……って?」
「張型じゃないですよ?」
いわゆるディルドー、有機部品を使った外付けできる性玩具ではない。
「え……じゃ、じゃあ、男……だったの?」
「んなわけないでしょう。というか、お風呂一緒に入ったでしょう」
「そう……よね……その時は……夢……?」
混乱して、視線が定まらないアデライナ。
私は、このまま押し切ろうと決めた。
当惑したままの美顔、その頬に手を添える。
「……いきます……!」
亀頭というか先端を女陰の入り口にセットして、腰を前進させる。
「……!?」
指をいれた感触からしてきつい拒絶があると思っていたが、あまり濡らしていなかったせいもあって、まともに挿入できなかった。入り口の入り口で止まってしまった感じ。
「むー……」
口をとがらせてアデライナ様の愛液を手に取り、男根の先端から根本まで、数度塗りつける。クリトリスの延長だから、それだけでイキそうになる。
「くっ……ふぅうう……」
だが、ここでイクわけにはいかない。さすがにそれはもったいない。
「ではもう一度……!」
と、改めてペニスを蜜口に重ねようとした時、アデライナ様が正気に戻った。
「ま、待てぇえええ!! 待ちなさい!! なんで性交しようとしてるんですか!!」
眉をつり上げて、動かすのもつらそうな手をこちらに向けて、びしっと指を差す。
「へ? ですから治療で……」
「だからなんで貴女の中で治療イコール性交なんですか!!?」
「…………そう言われると……」
リリアちゃん困っちゃいます。
ぶっちゃけアルデリカ様がそう言ったからとしか言いようがない。だが、さっき、オッパイでイかせたときは成功したわけだし。性交という方向は間違っていないと思うんだけど。
「他のやり方を考えましょう、ね?」
ほほえみ、諭す。
「…………」
一理はある。いや、一から十まで正しいかも知れない。が、
「では、やはりこっちで」
ここで止めるのはこっちが収まらない。
「こっち……? ち、ちょ、……ち、近づけないで……!」
ペニスをアデライナ様の眼前に持ってくる。
両手で乳房を挟み、その谷間に男根を没入させる。
「ふぇ?」
予想外の行為だったのか、アデライナ様は可愛いらしい嬌声を発し、己の胸を見下ろした。
「ふぁ……すご、やわらか……!」
マシュマロのような感触の柔肉に、愛液混じりの肉棒がぬるぬると滑り込む。
押しこめばどこまでも奥へ入り、引き抜こうとすれば優しく甘くペニスを引き止め愛撫する。
「うぁ……なにこれ……はあ……ぅああん……」
想像以上の快感に腰が砕けそうになる。
「あっ、あぅ、私の胸……お、オッパイ……が……熱っ……ぃ……ひぃ……あっ、そ、そんなもので嬲らないで……!」
涙目になって、アデライナ様が抗議する。
「じゃあ、左手で、こっちの乳首いじってあげますね?」
ただ胸乳に当てているだけだった手をずらし、指で乳首をつまむ。
「んあっ……!? い、いや……! ひあっ……んん!! や、やめて、乳首っ……壊れる……っ」
つまむだけでなく、引っ張ったり、こすったり、押し込んだりしてみる。
「あっ、あっ、ん、はっ……あぅ、し、痺れる……乳首、おかしくなるっ……」
「ふっ、ふふ……気持ちいいですか? はしたなく涎垂らすぐらい感じちゃってますか?」
「なっ……ん、んん……!」
頬を真っ赤に染め、しかし、こらえられずに喘ぎ、唾液の泡をこぼし、つぅ……と一筋たらしてしまう。
「うふふ……っ、くぅ……」
艶然とほほえんでみせるが、正直こっちも余裕がない。未知の刺激が陰茎を襲い、気を抜けばあっけなく絶頂してしまいそうだ。
それほど、アデライナ様のパイズリはすばらしい。柔らかく迎え入れられ、弾力で全体を愛撫される。まだ膣に入れたことはないが、オナニーと比べて、気持ちよすぎる。
「はっ、はっ、はっ……ぅ、あん、……ひ、ああ」
オッパイに包まれた陰茎を突き入れ、引き、ひたすら腰を前後させる。
「あ、あ、あ、ひ、んぁ、んお、あ、おっぱい、き、気持ちいい……あ、あ、はあ、もっと、ち、乳首ぃ……」
アデライナ様も、快感に、表情を蕩けさせ、甘えるような声音で求める。
「私も、私も気持ちいいですっ……アデライナ様……! 一緒に、一緒にイきましょう……、ね? おっぱいで、い、一緒にぃ……いい……!」
両手の手のひらと指で乳房から乳頭をぐいぐいと激しく絞る。
「……はっ……ん、ぃいい、な、なにか、くる……! 熱い、熱いの、くる……! や、いや、壊れてるっ、え、エラーですっ……こわい……ぃあ」
「大丈夫、ですよっ……ガイノイドとか、機械とか、そんなの関係ない……はぁ、んん、気持ちよくなるだけです……、く、くぅ、わ、私も、私も気持ちよく……!」
「あ、あひ、や、で、出るっ、何か出るぅううっ……!!」
びく、びくと、乳房ごと上半身が揺れ、登り詰めていく。
「んあっ、わ、私もイクっ…………い、くぅううううう!!」
腰をふるわせ、胸を反らせ、二人一緒に絶頂する。
『あ、ああああああああああああ!!』
視界が真っ白に染まる。
熱い熱い飛沫が、私の股間から漏れているのがわかる。
「ああああああ、ああ、ひぁ、熱い……熱いぃ……!」
多分、アデライナ様も同じように潮を吹いているのだろう、と私は思った。
だが。
「……んあ……あふぁ……あえ?」
白。視界を染める白。
イッた時の快楽の向こうの世界を見るような白濁ではなく、乳白色が視界に散っていた。
「お、おっぱい……?」
それはミルクだった。
とろとろの、甘そうな乳汁。それが、アデライナ様の乳房から、上半身全体を濡らしている。
「……妊娠……はありえないよね……」
「ぁ……んん……っ……ん……?」
長い絶頂から帰ってきたアデライナ様も、自分の胸の異変に気づく。
「…………な、なに、これ?」
私は、指先で白い液体をすくいとって、舐めてみた。
「母乳……ですね」
やっぱりミルクだった。
「……違うロックを外してしまったのかしら……?」
私は首を傾げる。
「こ、こんなことって……」
アデライナ様は手で顔を覆う。
私はおろおろと困却してしまう。
「ええっと……、あ、あら? アデライナ様、腕、動かせるようになりました?」
さっきも腕をあげてはいたが、かなり無理をしていた。だが今見た限りなめらかに動いていた。
「ん……あ、動く。動きます……!」
アデライナ様はしばらく腕を上げたり下げたりして確かめた。思い通りに、楽に、動かせるまで回復したようだった。
ちゃんと、本来の目的である治療にも十分なっていたようだ。私は胸を撫で下ろす。
「ありがとう。リリア」
と、アデライナ様は目を伏せる。
私は陛下の手を取る。
「良かった……治って、本当に良かった」
死ぬかもしれない、とアルデリカ様は言っていた。それが、いま、元の溌剌とした姿で目の前にいる。
「ええ……あなたのおかげです……よね。治ったのは。……ところで」
「はい」
「これも、あなたの手でどうにかなりませんか」
と、オッパイミルクを垂れ流す胸乳を持ち上げる。
「…………」
私は、顔をそらした。
だって、外し方は知っていても、締め方は知らないんだもん。
「…………素直に………………喜べません」
がっくん、と肩を落とし、アデライナ様は落ち込んだ。
これの慰め方も、私は知らない。
「それでは、私は先に行く」
旅装を身にまとい、女王陛下は颯爽と出立しようとしていた。
それを私たちは見送ることになった。
陛下はモーム伯爵に会釈した。
「モーム伯、色々世話をかけた。ご子息のことは……残念であった」
「不肖の息子のことはお気になさらず……彼奴も元服を済ませた身。欲や夢を追った結果でございましょう……陛下、お気をつけて、また会いに来てくだされ」
「ああ。必ずここに戻ってこよう」
伯爵への挨拶を済ませ、陛下が私たちの所へ歩み寄ってくる。
「突然の別れで困惑しているでしょう」
陛下は微笑する。
「と、当然ですっ……! 寝て覚めたらこの状況……説明して下さいっ!」
と、アデライナ様が唇をとがらせて、不平を言う。
「時間がないわけじゃないけど、早めに行ったほうが良いと思ってね。私はこれから、エイラントへ向かいます」
「なっ、休戦中とはいえ、敵国ですよ!?」
「うん。でも、行かなきゃならないの。なに、これがあるから大丈夫」
と、コン級のバリエーションである、一角機械獣、ユニコーンにまたがる。
通常のコン級ゴーレムに比べて攻撃力、防御力に劣るが、機動力に優れる機械馬だ。
どこをどうすれば巨人が馬に変形するのかは謎だが、なんでも、ゴーレムをこねくり回している内に偶然できたしろものなんだとか。
「まったく、ブラジャーからゴーレムスーツ、宇宙船まで、モーム伯爵は面白いモノを作る……あ、そうだ、宇宙船といえば」
と、私とアデライナ様を見下ろし、
「あなたたちふたりは宇宙へ行きなさい」
事も無げに女王は命じ、そして私たちは――
「え、ええええええ!!?」
さらなる旅へ。
遙か遠く、空を越えて宙への旅へと――
出発することになるのだった。
あとがき
だいぶ遅れましたが第2話です。
1話は勢いでいきましたが、2話からは色々考えてやらなければならないので時間かかりました。
1話と設定が矛盾した場合、観念して1話の方をこそこそ修正しますのでその時は指さして笑ってやって下さいこんな感じで……m9(^Д^)
それにしても、相変わらずエロいシーンが難しい難しい……。
巨乳ファンタジーの二次創作なのに、エロが薄くてもうどうすりゃいいやら……。
全5話、1話3万文字ぐらいを目安にしているので、そっちはこれからも薄くなってしまうかもしれませんが、できるだけ頑張りたいですはい。
- 関連記事
-
- 創作小説目次 (2012/02/11)
- 恋姫†無双 外史『無銘伝』第8話 (2011/12/29)
- 恋姫†無双 外史『無銘伝』第7話 (2011/12/29)
- 『巨乳SF?』 第2話 【巨乳ファンタジー二次創作小説】 (2011/10/07)
- 恋姫†無双 外史『無銘伝』第6話 (2011/07/19)
- 恋姫†無双 『無銘伝』欠史1 華雄(葉雄)伝 (2011/06/02)
- 『巨乳SF?』 第1話 【巨乳ファンタジー二次創作小説】 (2011/05/17)
この記事のトラックバックURL
http://bunsekikukanti.blog.2nt.com/tb.php/135-38d5ffd7
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック